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【赤ちゃん学】赤ちゃんの2ヶ月革命

赤ちゃんの2ヶ月革命


■いったん消えて再び現れるしぐさ

「しっぽ」や指の「水かき」が消えてなくなったり、脳の細胞がいったん増えてから減るように、ベビーの成長は「増える」ことだけではありません。それは体の組織だけでなく、行動やしぐさにも言えることです。

胎児期から乳児期にかけての行動やしぐさには、次のような3つのパターンがあります。
① 生後、しばらくして消える運動
② 胎児期から一生にわたって続く運動
③ 一度消えた後、再び現れる運動

生後よく見られるしゃっくりや驚愕運動などは、①にあたります。驚愕運動とは、眠りかけたべビーが、突然びっくりしたようにパッと手を広げたり、あるいはお風呂に入ってリラックスしているときに、ビクッと体を震わせたりするものです。これらは生まれてからしばらくすると、自然に消えてしまう行動で、行動発達学上は、あまり大きな意味をもちません。

②の運動は、口で吸ったり、呼吸をしたり、目を動かすなど、胎児期から一生にわたって続く生命維持のために必要な運動です。これらの運動はお腹のなかにいるときから始まり、一度獲得すれば一生持続します。生きるためには必要不可欠な運動ですが、これも行動発達学的な観点から見ると、あまり重要ではないのです。
 
注目すべきは、③の「一度消えた後、再び現れる運動」です。物を見て手を伸ばす、ハイハイ、指しゃぶりなどがこれにあたります。
胎児は、お腹のなかでもハイハイのような動きをしていることをご存知でしょうか。ハイハイは出産を機にいったん消えますが、生後8ヶ月ごろになると、再び見られるようになります。

指しゃぶりも同様、妊娠15週くらいに現れて、お腹のなかにいる間はずっと続いています。エコー写真を見ると、指しゃぶりの様子が写っていることがありますね。このしぐさも出産後はしばらく見られませんが、生後2ヶ月ごろになると再び現れます。
これらの運動が最初に現れたときは、ベビーの意志が働いているわけではありません。ところが、いったん消えて再び現れるときは、意志をもった運動として現れます。
この「いったん消えてなくなる」運動の変化を表したグラフが、アルファベットの「U」の形をしていることから、③のような運動は「U字現象」とよばれています。

■動きが少なくなるのは、複雑な動きを獲得する手段

U字現象に見られるベビーの動きは、生後2ヶ月ごろに大きく変化します。動きのレパートリーが急激に少なくなり、その後、再び活発にさまざまな運動をするようになるのです。

なぜ、さまざまなしぐさが、生後2ヶ月ごろに単純になるのでしょうか。

このことは、「自由度の凍結」という仮説で説明されています。
たとえば、右利きの人が左手で字を書くとしましょう。ペンを持っている左手のひじを宙に浮かせて書こうとすると、なかなか上手に書くことができません。ところが、ひじや手首をしっかり机に固定して書いてみると、安定感が得られて、次第に整った字が書けるようになります。

ひじや手首を固定するということは、「自由を奪う=凍結する」ということです。これと同じようなことがベビーの腕や足にも起こっているのです。

わたしたちが自然に腕を曲げたり伸ばしたりできるのは、異なる働きをするふたつの筋肉(「主働筋」と「拮抗筋」)を、うまくコントロールしているからです。大人は、意識せずにこのふたつの筋肉を使いこなしますが、ベビーはまだうまくコントロールすることができません。そこで、大人が利き手ではないほうの字を書くときと同じようなことが起こります。

安定感を得るためにひじや手首を固定するのと同じように、ベビーはふたつの筋肉を同時に働かせて関節をしっかりと固定します。自由のきかない状態で運動を行なうことで、大まかな動きを習得し、その後、ふたつの筋肉を解放して自由な動きを習得していくのです。
この自由を奪う時期が、ベビーの場合はちょうど2ヶ月ごろにあたるため、生後2ヶ月で動きのレパートリーが少なくなるというわけです。

一見、複雑な運動から単純な運動へと退化しているように感じますが、実はベビーの体のなかでは、次第に複雑な筋肉の動きを獲得していくための「革命」が起こっているのですね。

「生後2ヶ月革命」とは、ベビーの体のなかでバラバラに仕上がっていた機能が、うまく連携し始めるとっても大切な時期でもあるのです。


■脳のシナプスが急激に増加する「脳の2ヶ月革命」

体の機能だけでなく、脳も2ヶ月ごろに劇的な変化を遂げていきます。
脳は、神経細胞が他の神経細胞と結びつくときに、「シナプス」を介して情報を伝達し合います。このシナプスを介した脳のネットワーク作りが、いわゆる脳の発達と言われるものです。

ある学者の研究によると、脳の視覚野のシナプスの数は、生後2ヶ月ごろより急激に増え始めて、生後8ヶ月でピークに達し、それから減少し始めて10歳で落ち着くという結果が出ています。生後2ヶ月のベビーが、私たち大人よりはるかに多くのシナプスをもっているなんて、なんだか不思議だと思いませんか?
脳のシナプスが急激に増え始める時期と、行動の「革命」が起こる時期は、見事に一致しています。生後2ヶ月というのは、ヒトの発達にとっても変わり目の時期だといえるでしょう。

ベビーは、生きていくためのさまざまな機能を獲得するために、この世に生を受けてから、すぐに自ら行動を起こしています。これらの力はすべてのベビーに共通して見られることで、遺伝子的に組み込まれているプログラムだといえます。

自発的な行動がずいぶん早い時期から見られることからも、ベビーは私たちが考えているほど、脆弱な存在ではないと実感します。そう思うにつれ、ベビーがもって生まれた力を「見守る育児」を心がけたいと思うのです。
公開日:2015年01月09日

Navigator 【監修】小西行郎先生

日本赤ちゃん学会理事長。同志社大学 赤ちゃん学研究センター教授。

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